関根 当たり前ですが、相手は自分とは違う人ですから、思い描くとおりには育ってくれません。教える側としてできることは、新人が育ってくれる「環境」をつくることです。「環境」とは、つまり、「経験」と「人々」です。先ほどの「いざなう」にも通じますが、どんな経験を積ませて、どんな人たちとの関わりをつくってあげるか、です。育っていくかどうかは学ぶ側次第なところもありますし、成長するにも時間が必要です。1年目は分からなかったけれど、3年目でようやく分かったというケースもよくあるので、最初から「すべてを教えよう!」と気構えないほうがいいですね。
人に教えるということは、面倒だったり、イライラしたり、自分の感情に向き合うことでもあります。同じ内容を教えても、相手によってうまくいったりいかなかったりするので、「人はそれぞれ違う」ということに明確に気づく機会にもなります。自分の感情に向き合い、何かの気づきがあるというのは幸せなことです。「教えることは貴重な機会」と思えるといいですね。
■「自分の経験」「周囲の人々」「先人の知恵」
管理職や先輩社員が「教え上手」になることで、新人は大きく成長する。そこからさらに新人が伸びていくためには、教えられる側の新人自身が「学び上手」になることが望まれる。
関根 新人研修でよくお話しするのですが、勉強は、学校を卒業したら終わりではありません。学生さんは「就職したら勉強から解放される!」と思うかもしれませんが、企業に入社してからも学びは続き、しかも、学校での教育と違って、正解が定かではありません。自分で正解を探っていくしかないのです。それを手助けするために、私たちが「学びのリソース」と呼んでいるものが3つあります――「自分の経験」「周囲の人々」「先人の知恵」です。
「自分の経験」は、教える側の軸としてお話しした「どんな経験を積ませるか」を教わる側の目線から見た姿勢……つまり、「どんな経験を積めるか」です。いろいろな仕事が与えられるなかで、上手に学べる人とそうでない人がいます。たとえば、コピー取りをはじめとした雑用でも、自分自身で意味ある経験にできるかどうかが成長を左右します。
「周囲の人々」は、教える側の軸となる「人々」と同じ。つまり、先輩社員や上司、管理職との関わり合いのことです。ポイントは、「質問」「傾聴」「観察」です。たとえば、新人が良い質問をしたときに年配の社員からワーッと情報が出てくることがありますよね。私たちは、それを「おじさんスイッチが入った」と呼びますが、「おじさんスイッチ」を探すためには、とにかく「傾聴」すること。「教えてくれたことをメモする」「頷きながら聞く」は当たり前のことですが、これを行うと、年配の人は気持ちよく教えてくれます。いまの若い世代は「人前でメモをとるのは失礼」と思う傾向もあるみたいですが、たとえば、昭和世代の上司は、スマホではなく、ノートに書いている姿を見るほうが「教えてあげる」気持ちになったりします。また、「観察」することも大切です。教えるのが下手な人ほど「自分の背中を見て学べ」と言いますが、学ぶ側からすれば、何を見ればよいのか分からないですよね。そういうときは観察をして、分からなければ素直に質問するといいでしょう。観察をしていると、反面教師に出会うこともありますが、「悪いところだけを見るのではなく、その人のいいところを探そう」と、私たちは新人研修で伝えています。
「先人の知恵」は、書籍です。求める答えがすべて書かれていなくても、本を読んで参考になることは多いでしょう。
一生懸命に学んでいる姿勢を上司や先輩社員に見せることも大切です。「教え上手」の人が学ぶ姿勢を新人に見せるように、学ぶ側も学んでいる姿勢を先輩に見せると「頑張っているなぁ」「もっと教えてあげよう」と思われるようになります。また、少し早くにオフィスに出社して、簡単な掃除をするなど、OCBを積極的に行うと、周りの社員が良い印象を持ち、教育担当であるOJTトレーナーに対する会社の評価も上がります。そうすると、OJTトレーナーも気分が良くなり、「ますます教えたくなる」という好循環も生まれます。
■新入社員に正しい「学び方」を教えることが大切
新入社員は、仕事の「学び方」を関根さんのようなプロの研修講師に教えてもらうことが早道だが、企業によっては、人事担当や総務部の社員が新入社員に「学び方」を教えるケースもある。
関根 新人にとって、特に「学び方」の習得が必要な時期は、新入社員研修の前と、部門に配属される前です。
最初に、「新入社員研修の正しい受け方」を人事部が新入社員にレクチャーするとよいと思います。たとえば、「研修は受け身の姿勢ばかりではなく、自分でできることがあったらどんどんやりましょう」などと伝えることも重要です。
部門配属の直前も、新人にとっては大事な時間です。配属される先がどのような部門なのか……など、新人は不安にちがいありません。実際の職場では、新入社員研修で学んだマニュアルどおりにいかないことも多々あります。人事担当者が「配属先の職場はあなたを歓迎するけど、職場の先輩たちは忙しいからその気持ちを表せないかもしれない」など、少しマイナスなことも含めて、「あなたの職場は○○な状況だから、□□するとよい」といったふうに「学び方」をアドバイスしていくことが配属後に役立ちます。
「教え上手」と「学び上手」が増えていけば、当然、組織も変わっていく。関根さんがこれまで関わってきた企業では、どのようなケースがあったのだろうか。
関根 「教える」という風土がほとんどなかった会社がありました。OJTトレーナーは新人を崖に突き落とし、そこから這い上がってくる人に目をかけるような方法でしたが……数年かけて研修を続けるうちに、社内に「教える空気」が生まれました。そして、現在は、新人が学ぶべき人を一覧にした「人脈マップ」ができ、その情報が年々書き加えられ、組織の中で受け継がれるようになっています。私たち外部の者はスポット的にしか組織に関われませんが、こうした変化を知れるのはとてもうれしいです。教える側と学ぶ側、双方の人間関係も良好になって、企業全体の成長にもつながっていきます。
■教え合い、学び合う環境の中で組織は変わる
組織を変えるのは、管理職や新人にとっての先輩社員だけとは限らない。新入社員側からの働きかけが組織を変えることもある。
関根 最近では、教える側である管理職や先輩社員よりも、学ぶ側の新入社員からの働きかけに重点を置いている企業もあります。先ほどの「人脈マップ」は、一般的には教える側が作るのですが、ある会社では、新人側が先輩社員にインタビューしてまとめています。これは、教える側が新人の力量をある程度信じていないとできないことですが、最低限の「経験」と「人々」を整えてあげたら、あとは新人に任せてみることも重要でしょう。その会社では、「人脈マップ」を作る新人がさまざまな先輩社員にインタビューしながら、「自分にできるOCBはありますか?」といった質問もしています。学ぶ側が自ら動き、働くための環境を作っているのです。
新人は、まだ何にも染まっていないからこそ、旧態依然とした組織に風穴を開ける可能性もあるのだろう。一方的に「教える」「学ぶ」ではなく、社員が双方向で教え、学び合える環境が整っていけば、組織はさらに風通しが良くなっていくはずだ。
関根 組織を変えるために、上の世代が号令をかけても、いままでやってきていないことは簡単にはできません。せっかくフレッシュな人たちが入ってきたのだから、管理職や人事部はその力を活用するべきだと思います。ある企業で、2020年4月入社の社員が、今年2022年入社の後輩たちの入社式を企画しました。2020年入社の社員は、コロナで入社式もできず、何がなんだか分からないままリモートワークを続けたような若手です。入社式を企画したのは、「後輩には、そういう思いをしてほしくない」という思いからでした。私がその入社式の様子を聞いて「面白い」と思ったのは、一般的な入社式では新入社員が着席しているところに役員が入ってきますが、「入社した新人に対するウェルカムの空気をつくりたい」と、役員たちに席に座っていてもらい、そこに新人が入室し、皆が拍手で迎えたことです。これは人事部の協力があってのものですが、私は「とてもいいな」と思いました。新人たちもみんなの拍手に感動したようです。
論語に「後生畏るべし」という言葉がありますが、まさにそのとおりで、若い人の存在や考え方は決して侮れません。動画を使った新しい学び方など、面白いことをどんどん提案してきますから。人事部が若い世代をうまく後方支援していけば、新人と先輩社員、管理職たちが「学び合う」関係性の中で、組織全体が変わっていくでしょう。
以上です。長い文章をお読みいただき、お疲れさまでした。

1948年3月18日生まれ
好き:仕事、ワイン、落語、漫才、みんなの笑顔、家族、妻(多分)
嫌い:仕事、ホルモンのシロ=噛みきれないので、妻(多分)
得意:笑顔、プログラミング、早食い、経営(多分)、妻(多分)
苦手:指相撲、妻(多分)
似ている芸能人:藤山寬美、キムタク(多分)
















