その25 赤信号

 初めての年、「000」クッションは100個単位で注文が集まり、デパートの売り場にまで並びました。しかし2年目以降は50個からせいぜい100個しか売れていません。売り上げが急落しています。わずか1年で、消費者の好みが急変するということは考えにくいことです。

 まず、どういう方々に「000」クッションはお買い上げいただいているのか。デパートなどのご協力もいただきながら調べてみました。

 すると、意外なことが分かりました。最終需要先のほとんどが住宅メーカーだったのです。住宅メーカー? どうしてたった1つの業種に最終需要先が絞られてしまうのでしょうか? 不思議です。

 住宅メーカーが会社の事務所で高級クッションを使うことはないでしょうし、もしそんな使い方があるのなら、他の業種の企業にもお買い上げいただいているはずです。そうすると、住宅メーカーに共通した高級クッションの使い方があることになります。

 そこまで考えて、やっと原因が見えてきました。使い道はモデルハウス用に違いありません。「000」クッションのデザインの良さが、モデルハウスの質感を高める小道具として相応しいと評価され、採用していただいたのでしょう。私たちのデザイン力、企画力が高く買われたわけで、その限りでは、我が意を得たり、の結果でした。

 しかし、モデルハウスの数には限りがあります。そのため、モデルハウス需要が一巡してしまい、新しい需要先がなくなった。これが分析結果でした。

 クッションの販売が持続するには、一般のご家庭にご購入していただかなければなりません。それなのに、最終需要先のリストにはほとんど普通のご家庭がないのです。

 1年目、モデルハウス用に大量にお買い上げいただいたものの、2年目以降はモデルハウス以外の需要先を見いだせていないのです。

モデルハウスでは、「000」クッションは室内装飾の一つとして使われたのでしょう。しかし、クッションは室内装飾品ではありません。それぞれのご家庭の暮らしの中で、日用品として実際に使っていただいて初めて意味があります。

「普通のご家庭向けの日用品としては値付けが高すぎたかな」

 そんな反省もしました。しかし、「000」クッションは大変な手数をかけて一つ一つ作ります。ほとんどが手作業ですからどうしてもコストがかさみます。そこに適正と思われる利潤を乗せると、その価格になってしまうのです。普通のご家庭への浸透を狙って価格を引き下げればコスト割れになり、造れば造るほど赤字になってしまいます。それでは造る意味がありません。

 会社の未来を賭けて「000」ブランドを立ち上げてからわずか2年半。2本の柱の1本として育てていこうと開発したクッションの先行きに赤信号がともりました。私たちのブランド戦略は大きな壁にぶつかりました。

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笠原 康利
1948年3月18日生まれ 好き:仕事、ワイン、落語、漫才、みんなの笑顔、家族、妻(多分) 嫌い:仕事、ホルモンのシロ=噛みきれないので、妻(多分) 得意:笑顔、プログラミング、早食い、経営(多分)、妻(多分) 苦手:指相撲、妻(多分) 似ている芸能人:藤山寬美、キムタク(多分)