ご記憶でしょうか。グランプリに輝いた4班の最初の企画は、刺繍でつくる数珠でした。多分、笠盛が誇る000の技術、つまり刺繍で珠を作る技術から思いついたのだと思います。000のスフィアを短くして腕に巻くようにすれば、数珠といえないこともありません。
しかし4班の仲間たちは、最終局面になって
「刺繍の数珠に市場性はあるか?」
と考えたようです。刺繍の数珠なら故人と一緒に棺に入れて火葬に付すことが出来るというのがお薦めポイントでした。しかし、数珠には木で出来たものもあります。木なら燃えますから、何もわざわざ刺繍で数珠を作らなくてもいいわけです。
新商品、新サービスを世に問う場合、何よりも必要なことは「お客様に選んでいただける」ことです。選ばれるいうことは消費者の心をつかむことです。4班の仲間たちは商品・開発コンペ<プレゼン準備編>からの1ヵ月ほどの間に「刺繍の数珠」を捨て、これなら「選んでいただける」だろう新商品の企画に挑んだわけです。香り付きの刺繍には、私も強く惹かれました。
4回続けた「商品開発コンペ」の狙いは、もちろん、200年企業を目指す「笠盛」の屋台骨を支える新しい商品、サービスをみんなの力で生み出すことでした。しかし、私たちが「000」の開発に多くの時間を費やしたことでも分かるように、新商品、新サービスを産み出し、市場の評価を受けるのは生易しいことではありません。これまでそんなことをやったことがない社員がほとんどですから、たった4ヵ月で狙い通りの新商品、新サービスが生み出せるとは、正直いってあまり期待してはいませんでした。
では、どうしてこのコンペを開催したのか。
1つは、「笠盛」ではお客様の注文を待って刺繍をするOEM部門と、刺繍によるアクセサリ−「000」をつくる工場が分かれています。車なら10分ほどの至近距離ですが、それでも「全社一丸」にはなかなかなりにくいのです。
そこで、このコンペを通じて2つの工場がどんなことをしているのか、どんな技を持っているのかを全員が知ることが出来れば笠盛の総合力が上がるはずだ、と考えたのです。OEMと000の技術をミックスできれば、いまを越えた刺繍メーカに脱皮できるのではないか。
もう1つ狙ったものがあります。選ばれる商品とはどのようなものなのかを全社員に考えてもらいたかったのです。私たちの日々の仕事は同じことの繰り返しがほとんどです。だから、ついつい日々の仕事にかまけて、「笠盛」を200年企業にするためには何をしなければならないかを忘れがちになります。
だから、毎月1回の勉強会を利用して、みんなに「選ばれる商品」を考え抜いてもらおうと思ったのです。4回の勉強会で新商品、新サービスを生み出せなくても、新商品、新サービスを生み出すためのメンタル・トレーニングは半年後、1年後には素晴らしい新商品、新サービスを誕生させてくれるのではないか。
そのために私たちは、「SWOT分析」「4P分析」を学びました。それを通じて自分の強みをどう活かすか、最終的にはお客様が財布を開きたくなる「顧客価値」を生み出さねば新商品、新サービスは成功しないことを学びました。スターバックスやハーゲンダッツの成功を支える「コア・バリュー」を研究したのもそのためです。
新商品、新サービスと一口に言います。いま売れているものをリサーチして、コピー商品を作れば簡単だ、という考え方もあります。確かに、すでに売れているもののコピーを作ればそこそこ売れてくれるでしょう。しかし、自力で新商品、新サービスを産み出す努力をせずにそんなことを続けていては、いつかは壁にぶつかります。何よりも、ものづくり企業としての力がなくなってしまいます。
それぞれ違った個性、好みを持つ社員1人1人が自分の好きなもの、得意なもの、お客様に使っていただきたいもの、喜んでいただけるに違いないと確信するものをワクワクしながら作る。それができるようになれば、「笠盛」は必ず200年企業になることが出来ます。
「笠盛」は、笠盛にしか作ることができない「顧客価値」を創造する企業でなければならないと思います。
まず、顧客価値を十分に考え抜いた新商品、新サービスのイメージがある。「笠盛」はメーカーですから、それを形にしなければなりません。いまの技術で作ることが出来ないのなら、作ることが出来るまで技術を磨く。その繰り返しがなければ「笠盛」は200年企業にはなれないのではないかと思います。
実は、折角グランプリを取った「刺繍×アロマのプロダクト」ですが、商品化はまだ出来ていません。慢性的な人手不足で日々の仕事に追われ、そこまで手が回らないのです。刺繍に香りを付けるにはどうすればいいのか。刺繍に繰り返し香料を染み込ませれば刺繍の色が変わってしまうのではないか。商品化までには研究して解決しなければならない課題は山ほどあります。
アイデアはあるのに、なかなか具体化しない。これは「笠盛」の悪いクセです。ここから抜け出せなければ200年企業は夢のままでしょう。
「何とかしなければ」
と私には少し焦りがあります。4回連続の「商品開発コンペ」で1人でも多くの仲間たちが私と同じ焦りを感じ、その克服に歩を進めることが出来たらと思っています。

1948年3月18日生まれ
好き:仕事、ワイン、落語、漫才、みんなの笑顔、家族、妻(多分)
嫌い:仕事、ホルモンのシロ=噛みきれないので、妻(多分)
得意:笑顔、プログラミング、早食い、経営(多分)、妻(多分)
苦手:指相撲、妻(多分)
似ている芸能人:藤山寬美、キムタク(多分)















