その13 意気盛ん!

 たったそれだけのことでも、やり始めると勢いがつきます。パンフレット配りを続けるうちに、隣のホールで「プルミエール・ビジョン」が同時開催されていることを思い出しました。当初、私たちが目標に定めた展示会です。その会場にはJETRO(日本貿易振興会)がブースを出しており、出展されている日本製品のパンフレットを配っています。

「JETROのブースに『笠盛』のパンフレットを置いてもらえば、プルミエール・ビジョンに来たバイヤーたちをこちらに引き込むことが出来るかもしれない」

 思い立った私は隣のホールまで足を運び、JETROのブースに行って丁重にお願いしました。ところが、

「あなたの会社のパンフレットは、ここには置けないのです」

 とつれない返事しかくれないではありませんか。何度頭を下げても返答は変わりません。いまになって考えると、「プルミエール・ビジョン」には「プルミエール・ビジョン」のルールがあり、展示品以外の宣伝は禁止されていたのでしょう。しかし、何とか客を呼び込もうと必死だった私はそんなところまで思い及びませんでした。カッとなったあまり、思わず声を荒げてしまったのです。

「JETROが存在する目的は日本製品の振興だろう。日本企業を支援することではないのか? これほど頭を下げて頼んでいるのに、どうして置いてもらえないないんだ!」

 それでもJETRO職員の返事は変わらず、とうとう置いてはもらえませんでした。

 そうそう、「ビップ・プロダクツ」の特設コーナーに飾ってある「笠盛」が受賞したサンプルを目にして

「あの製品をもっと良く見てみたい。手触りなどを是非確かめたい」

 というお客さんがいました。中東の方とお見受けしました。

 ところが、なのです。あれは、どうせ事前審査に通るはずはない、と頭から決めつけて送り出したものです。何を送ったのかさえ記憶になかったことは前に触れました。開催初日まで、「ビップ・プロダクツ」に選ばれるなんて思いもしなかったものです。そんなものをブースに持ち込んでいるはずがありません。

「申し訳ありません。今回は持ってきていません」

 とお断りするしかありませんでした。後で思えば、ずさんな事前準備のために絶好の商機を逸したわけで、返す返すも残念です。

 結局、5日間で我々のブースを訪れた客は50~60人、売り上げは100万円少々しかありませんでした。電卓を叩いてみるまでもなく、完全な赤字でした。

「大変だったね。きっと意気消沈して帰国したんでしょう?」

 ですって?

 いえいえ、日本に向かう飛行機の中で、私たちは意気盛んでした。

「俺たちがつくっている刺繍は世界に通用する。大丈夫だよ。自信を持とうよ。初参加の初日であれだけ売れたんだから」

「モーダモンは服飾パーツの展示会だから、次回はパーツをもっと充実させたほうがいい」

「次回までに国際戦略を練り上げて、売って売って、売りまくるぞ!」

 まるで三馬鹿トリオのパリ漫遊記です。私は飛行機のシートで

「少なくとも3年間はモーダモンに挑戦する」

 と決意を新たにしながら眠りに落ちたのです。

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笠原 康利
1948年3月18日生まれ 好き:仕事、ワイン、落語、漫才、みんなの笑顔、家族、妻(多分) 嫌い:仕事、ホルモンのシロ=噛みきれないので、妻(多分) 得意:笑顔、プログラミング、早食い、経営(多分)、妻(多分) 苦手:指相撲、妻(多分) 似ている芸能人:藤山寬美、キムタク(多分)