200年企業へ —笠盛人の日第25回 顧客満足度を高める(2回目)、の2

私たちの仕事は、最終的には消費者の「期待」を「感動」に変えることであることはご理解いただけたと思います。

今度は、「笠盛」の中での仕事をもっと細かく見ていきましょう。

「私」は前工程を終えた中間製品を受け取り、自分の仕事をして後工程に渡します。「私」から中間製品を受け取った後工程は、やっぱり自分の仕事をして次の工程に渡します。これが積み重なって、最終的には「笠盛」の出荷工程に完成品が渡り、それがお客様、多くの場合は縫製会社と「笠盛」を繋いでくれた仲介業者に渡ります。

さて、いまは「笠盛」の中での流れを考えています。すると、「私」は前工程から、中間製品を受け取る時、「感動」も一緒に受け取らなければならないことになります。そして、自分の仕事をして後工程に渡す時は、やっぱり「感動」も一緒に渡さなければなりません。こうした「感動」の流れが「笠盛」の中になければ、お客様につながる「感動」の流れを生み出すことはできません。

ここで考えてみましょう。「笠盛」の作業工程で、次々と「感動」が伝わるとはどういうことでしょうか?
私は、自分に任されている仕事をきっちりと仕上げることだと思います。次に渡す後工程の人が

「ああ、綺麗に仕上がっている」

と思ってもらえるように仕事をするのです。前工程から

「これは手抜きじゃないか?」

というようなものが流れてきたらあなたはどう思うでしょう? 仕事の手間が増えるばかりではなく、気分よく仕事をする事ができなくなるのではないでしょうか。後工程の人に

「きっちり仕上げてあるから、私の仕事も楽だ」

と喜んで貰えるような仕事をする。それが社内の工程で「感動」の流れを作ることだと思います。この流れを作らなければ、お客様に「感動」を伝えることはできません。

トヨタ自動車の社長、会長だった故豊田章一郎さんがこんな話をされたことがあるそうです。当時豊田さんは経団連の会長で、企業の不祥事が多発している時に開かれた記者会見の席上でした。企業の不祥事をどうやって防ぐのかとう記者の質問に対して、社内の監視体制を強化する、などという人が多い中、豊田さんは

「トヨタ自動車は車メーカーです。安全で快適な車を消費者の皆さんにお届けするのが使命です。お客様に安心してお渡しできる車を作るために何をするか。組み立て工程を終えてラインオフした車を1台ずつ検品されるところもあるようですが、トヨタは違います。検品する必要がないように工程を組んでいます。そのためには全ての工程で、100%間違いなく組み立てて次の工程に渡さなければなりません。それができれば最終の検品は不必要になります。不祥事も、起きてから対策をとるのではなく、すべての工程で不祥事が起きないような会社にするしかないのではないでしょうか」

それがトヨタ自動車のものづくりです。「笠盛」もこんな会社になりたいと思います。

さて、私たちは感動を生み出し、それを伝えなければならないといいました。では、感動とはどのように伝わるのでしょうか?

もう一度、「期待」と「感動」の流れを思い出して下さい。「期待」は消費者から始まり、それが順を追って「笠盛」に届き、「笠盛」の中でもそれぞれの工程を通って伝わります。「感動」は逆に、「笠盛」内の工程を流れ、最期に消費者に届きます。そうであれば、まずやらなければならないのは、自分が受け持っている仕事には何が「期待」されているのかを予測することです。そして、「笠盛」内で、前の工程から受け継ぐ「感動」を次の工程に受け渡していかなければなりません。

もう1つ考えなければならないのは、消費者は自分が「期待」していることを言葉にはできないことです。あなたが本当に欲しいものは何ですか? と問われて明確に答えることができる人はまずいません。消費者がボンヤリとしか持っていない「期待」を、具体的なものとして実現してあげる。それが感動につながるのではないでしょうか。

桐生が誇る刺繍作家の大澤紀代美さんは、デザイナーの山本寛斎さんからパリコレに出品する作品に施す刺繍の注文を受けたことがあります。どんな刺繍かというと

「砂漠の砂に埋もれている黄金の彫刻をブッタ切ったもの。あとはお任せします」

だったそうです。それを大澤さんは形にしました。1990年のことです。しばらく後、パリから

「大澤さん、やりました! 大成功です!! ありがとうございます」

という山本さんからの電話が飛び込んだそうです。私たちが消費者に感動を届けるのも、これと似ています。具体化していない消費者の「期待」を、形にして届けるのです。

そして、それを実現するには、お客様に刺繍が届くまでのストーリーの中で自分が何をすれば良いか、自分が何を期待されているかを常に考えて実行すること。それが感動の連鎖を作る一番の手段なのです。

ABOUT US
笠原 康利
1948年3月18日生まれ 好き:仕事、ワイン、落語、漫才、みんなの笑顔、家族、妻(多分) 嫌い:仕事、ホルモンのシロ=噛みきれないので、妻(多分) 得意:笑顔、プログラミング、早食い、経営(多分)、妻(多分) 苦手:指相撲、妻(多分) 似ている芸能人:藤山寬美、キムタク(多分)