いまになって思い返せば、当時の私は営業マンとしては失格でした。2ヶ月ほど刺繍工場に籠もったとはいえ、刺繍に関する知識は素人に毛の生えた程度しかありません。特に、他の刺繍屋さんがどんな刺繍をしているかなんて爪の先ほども知りません。他を知らないから、「笠盛」の刺繍の何が良くて、どこがどう優れているかなんて全く分かりません。とにかく
「お願いします。仕事を下さい」
としかいえないのですから、それでなくても少なくなっている仕事を、新規の「笠盛」に回そうなんて考える人がいるはずがありません。
むしろ、私が持っていった「笠盛」のサンプルを見て、
「この刺繍が出来るんだったら、こんな刺繍も出来るはずだなあ。うちではやってないけど、そんな刺繍を欲しがっているところを探したらどうです?」
「ああ、これなら、あの工場に行ってみたらどう? ひょっとしたら使ってくれるよ」
そんなことを営業先に教えてもらう始末だからどうしようもありません。
いまなら、
「笠盛の刺繍は仕事が丁寧で波を打ったりしません。ほら、生地と刺繍の境目が綺麗でしょう?」
などと「笠盛」の技術力を蕩々と語れるのですが、当時の私は頭を下げるしか能のない駆け出しの営業マンに過ぎませんでした。

1948年3月18日生まれ
好き:仕事、ワイン、落語、漫才、みんなの笑顔、家族、妻(多分)
嫌い:仕事、ホルモンのシロ=噛みきれないので、妻(多分)
得意:笑顔、プログラミング、早食い、経営(多分)、妻(多分)
苦手:指相撲、妻(多分)
似ている芸能人:藤山寬美、キムタク(多分)
















