「笠盛」の履歴書 — その26 缶ビールの味

 1年ぐらいは全く仕事になりませんでした。帰りの電車で苦い缶ビールを飲みながら

「ああ、今日もダメだった。こんな調子ではうちの会社はいつまで持つんだろう」

 なんてため息ばかりついていました。

 でも、不思議なことに、

「会社が潰れたら、俺、どうやって暮らしていこう」

 という風には頭が動かないのです。何となく、自分の暮らしは何とかなる、どうしてもダメだったら、またソフトウエアの世界に戻ればいいや、って開き直っていたみたいです。当時は日本のコンピューターの黎明期みたいなもので、ソフトが分かる人間は引っ張りだこだったのです。実際、辞めてきた日立ソフトウエアエンジニアリングからは

「戻ってきてくれないか」

 という誘いを何度も受けていました。しかし、戻る気は全くありませんでした。だって、私が「笠盛」を放り出したら、「笠盛」は本当に潰れてしまいます。ひいおじいさんから代々守り続けてきた灯りを消してしまいます。

 いや、それよりも、私が逃げ出したら、笠盛で一緒に汗を流している社員たちから仕事を奪い、丸裸にして不況の寒風の中に放り出すことになります。経営者の一族として、そんな無責任なことは出来ません。

 ここは、石にでもかじりつき続けるしかないのです。

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笠原 康利
1948年3月18日生まれ 好き:仕事、ワイン、落語、漫才、みんなの笑顔、家族、妻(多分) 嫌い:仕事、ホルモンのシロ=噛みきれないので、妻(多分) 得意:笑顔、プログラミング、早食い、経営(多分)、妻(多分) 苦手:指相撲、妻(多分) 似ている芸能人:藤山寬美、キムタク(多分)