その7 KASAMORI LACE

 原因の1つは、ニット向けのオーガニック素材の綿糸を使ったことでした。刺繍によく使われるアクリル糸なら縮まないので、糸が細くなったところがあっても切れないのですが、私たちのコンセプトがもたらした問題でした。

 当時使っていた1997年製のミシンも悪戯っ子でした。その後2008八年にミシンを入れ替えると糸切れがなくなったのです。しかし、モーダモン出展を目指していた当時はミシンが原因などとは考えもしませんでした。やっと出来上がったかと思うと糸切れ。何度地団駄を踏んだことでしょう。

 それでも私たちは、コンセプトを手放しませんでした。誰でもできるものなら世界に評価されることはありません。桐生の、「笠盛」の技術力とデザイン力を世界に問いかけるには、ここは何としてでも乗り越えねばならない峠なのです。

 パリには伊藤忠OBの知人と片倉君、それに私の3人で出かけることにしました。ところが、出発の前日になっても作業が終わりません。より良いもの、誰に見せても胸が張れるものを創り出す作業とは時間との追いかけっこです。締め切りが迫っても、いや、例え締め切りが過ぎても

「まだ足りない。もっと手を加えたい!」

 という思いは、この仕事の醍醐味であり、苦しさでもあります。やっと世界のバイヤーに見せても恥ずかしくないものが仕上がると、ほとんど寝る間もないままにJR桐生駅に駆けつけ、午前4時半発の直行バスで成田空港に向かいました。 私たちは骨の髄まで疲労困憊していました。バスの中でぐっすりと寝込んでしまったのはいうまでもありません。

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笠原 康利
1948年3月18日生まれ 好き:仕事、ワイン、落語、漫才、みんなの笑顔、家族、妻(多分) 嫌い:仕事、ホルモンのシロ=噛みきれないので、妻(多分) 得意:笑顔、プログラミング、早食い、経営(多分)、妻(多分) 苦手:指相撲、妻(多分) 似ている芸能人:藤山寬美、キムタク(多分)