その31 2個に1個

「そうだ、社長も寝ずに待っているんじゃないかな。電話で知らせなくちゃ」

 ライフスタイル展の初日までは、もう1週間を切っていました。

「社長、できました。107個の珠が綺麗に繋がったネックレスを縫い上げることが出来ました。今年のライフスタイル展に何とか間に合いそうです」

「えっ、ホント? うわー、よかった。よかったーぁ。助かったよ! ありがとう‼」

 私の住まいは工場や事務所と棟続きになっています。パジャマを着たまま、すぐに2人のところに駆けつけたのはいうまでもありません。

 しかし、できたのはまだ試作品です。刺繍の珠をコンピューター制御のミシンで造る技術を生み出すことだけが目的でしたので、デザインもへったくれもありません。大小の珠が連なったネックレスらしきものが出来上がればよかったのです。

 片倉君は自分のデスクに戻ると、すぐにスケッチブックを取り出してデザインを始めました。やっと造ることができるようになった「珠」を組み合わせて、どんなネックレスに仕上げるのか。

「それは難しいことではありませんでした」

 と片倉君はいいます。数え切れないほどの失敗を繰り返していた間、片倉君の頭には

「珠ができたら、こんな組み合わせで、色はこれで。うん、あの色も、この珠の配置の仕方も素敵だ」

 そんなアイデアが次々に沸き上がっていたからです。あとは、頭の中にくっきりと残っているデザインを紙に描き写せば済む作業だったといいます。

 デザインが仕上がればプログラミングです。これも基本部分は完成しています。デザインにあわせて細部を手直しするだけです。

「よし、やってみよう!」

 工場の刺繍ミシンが軽快な音を響かせて動き出しました。

 本当ならここで

「ミシンの動きに合わせるように、これまで世界に存在しなかった、刺繍の珠が連なったネックレスが次々に姿を現したのです」

 と書きたいところです。でも、世の中はそれほど甘いものではありません。不良品がいやになるほど出るのです。目分量で2個に1個は、一部の珠がひしゃげていたり、糸切れで毛羽があったり、どこかに不具合があります。商品にできそうなものは50%。それが、出来上がったばかりの技術の限界でした。それから毎日作業を続けて、どうやら天気や湿度などが影響しているらしいことは薄々分かりました。しかしライフスタイル展は目前です。それを根本的に解決する時間はもう残されていません。

「2個に1個使えるのなら上々だ」

 そう割り切って、毎夜10時、11時まで作業を続けました。突貫作業とは、こんな仕事の仕方をいうのでしょう。

 インテリア・ライフスタイル展は目前でした。

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笠原 康利
1948年3月18日生まれ 好き:仕事、ワイン、落語、漫才、みんなの笑顔、家族、妻(多分) 嫌い:仕事、ホルモンのシロ=噛みきれないので、妻(多分) 得意:笑顔、プログラミング、早食い、経営(多分)、妻(多分) 苦手:指相撲、妻(多分) 似ている芸能人:藤山寬美、キムタク(多分)