「笠盛」の履歴書 — その26 缶ビールの味

「がんばっていれば、必ず何とかなるものだ」

 そう思ったのは、営業に回り始めて一年ぐらいたった頃でした。

「あんたのところの仕事は丁寧だし、納期もきちんと守ってくれる。ひょっとしたら仕事をくれるかも知れないところを紹介してあげよう」

 ボロボロになりかけていた私に声をかけてくれたのは、東京に本社があるイタバシニット熊谷工場の小野五十六常務でした。私が家に戻る数年前から取引があったところで、石油危機のあとも、少量ではありましたが定期的に注文をいただいていました。

 そうか、「笠盛」の刺繍を評価してくれる目利きがいたんだ。桐生の工場で、どんな時でも真面目に刺繍してくれている社員の力だ。思わず涙が出そうになりながら、私はポケットから手帳を引っ張り出し、紹介していただく先をメモしました。イタバシニットに仕事を出しているアパレルメーカーで、そこに行けば刺繍の仕事を出している先の工場を紹介してくれるだろう、というのです。

「俺、電話しておくからさ、出来るだけ早く行ってみな」

 飛び上がるほど嬉しい、とはこんな時に使う表現でしょう。

「缶ビールってこんなに美味かったんだ」

 身体の奥底から沸き上がってくる喜びを感じながら帰りの電車で呑んだ缶ビールの味が忘れられません。

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笠原 康利
1948年3月18日生まれ 好き:仕事、ワイン、落語、漫才、みんなの笑顔、家族、妻(多分) 嫌い:仕事、ホルモンのシロ=噛みきれないので、妻(多分) 得意:笑顔、プログラミング、早食い、経営(多分)、妻(多分) 苦手:指相撲、妻(多分) 似ている芸能人:藤山寬美、キムタク(多分)