その18 見えないゴール

 積み重なった開発の努力が少しずつ形になり始めました。しかし、自分たちが創り出そうとしている製品の姿が見え始めると、本来なら喜びを感じるはずなのに、どうしたことか私たちは、逆に不安に襲われるようになりました。

 自分たちが

「これなら行ける!」

 と踏んで産み出そうとしている刺繍糸だけによるアクセサリーは、世の中に受け入れてもらえるのだろうか? 私たちの考えが間違っていて、どれほどがんばっても、どんなにいいものができても、消費者にはそっぽを向かれ、結局は壮大な無駄に終わってしまうんじゃないか? 

 ひょっとしたら、まったく新しいものを開発する者が一度は陥る不安だったのかも知れません。

 でも、私たちは走り出してしまったのです。ゴールにまではまだ距離がありますが、ここまで来て不安がっていても答は得られません。私たちは、

「思い悩むぐらいなら、一足飛びに世の中に聞いてみる方が早道だ」

 と思い切りました。思いついたらすぐに実行する。「笠盛」のDNAにはそんな挑戦精神が根付いています。2009年秋、思い切って三回目の出展になる「モーダモン」に出品してみたのです。

 2007年のモーダモンに持って行ったケミカル刺繍に比べれば、デザインも品質もはるかに良くなってはいましたが、私たちは開発というレースを走りきってはいません。まだゴールを目指して走っているさなかなのです。

 2009年にパリまで持っていったのは、造っている私たち自身ですらが、

「まだ商品にはならないよなあ」

 というレベルのアクセサリーでしかなかったからです。

 でも、「モーダモン」はアパレル付属品の服飾資材の展示会です。最終消費者の方々にお売りするのではありません。私たちが生みつつある新しい刺繍のアクセサリーをお見せするのは、自分の判断で仕入れたものが売れるかどうかという目利きを仕事にされているバイヤーやデザイナーの方々ばかりです。それなら開発途中の製品をお見せしても許されるのではないか、と私たちは考えました。

 と自分たちでは納得したつもりになってはいましたが、本心は恐る恐るの出品でもありました。

「こんなつまらないものを作るのは、どこの何という会社だ? 日本の『笠盛』だって? こんな会社は永遠に見込みがないな。ブースを覗くだけ無駄さ」

 と、永久に消えない烙印を押されるかも知れなかったのです。 迷いながらの1歩。これも八方破れの経営といわれてしまうかも知れません。

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笠原 康利
1948年3月18日生まれ 好き:仕事、ワイン、落語、漫才、みんなの笑顔、家族、妻(多分) 嫌い:仕事、ホルモンのシロ=噛みきれないので、妻(多分) 得意:笑顔、プログラミング、早食い、経営(多分)、妻(多分) 苦手:指相撲、妻(多分) 似ている芸能人:藤山寬美、キムタク(多分)